概要
第2回では、Apple IIとVisiCalcがパソコンを仕事の道具に変えた流れを整理しました。
しかし、表計算ソフトの主役はその後も変わっていきます。
VisiCalcからLotus 1-2-3へ。Lotus 1-2-3からExcelへ。そして、PC上の表計算からクラウド上の共同編集へ。
表計算ソフトは、企業の数字の扱い方を変え続けてきました。
この第3回では、VisiCalc以降の流れを、表計算が「個人の計算道具」から「チームとAIの作業基盤」へ広がっていく歴史として整理します。
Lotus 1-2-3とIBM PCの時代
VisiCalcの成功後、表計算ソフト市場の主役はLotus 1-2-3へ移っていきます。
Lotus 1-2-3は、IBM PCの普及と強く結びつきました。表計算、グラフ、簡易データベース機能を組み合わせ、企業の業務で広く使われるようになります。
この時期、表計算ソフトは単なる計算ツールではなく、会社の意思決定を支える道具になっていきました。
- 売上予測
- 財務分析
- 在庫管理
- 予算管理
- 経営資料の作成
多くの業務が、表計算ソフトの上で行われるようになります。
VisiCalcからLotusへ主役が移った
VisiCalcを開発したSoftware Artsの主要資産は、1985年にLotus Developmentへ移っていきます。
最初に市場を作ったVisiCalcから、IBM PC時代のLotus 1-2-3へ。
この主役交代は、ソフトウェア産業の厳しさも示しています。
社会を変えるアプリを作っても、その市場を取り続けられるとは限りません。対応するハードウェア、販売力、企業ユーザーの選択、競合製品の機能によって、主役は変わっていきます。
表計算ソフトの歴史は、技術だけでなく、プラットフォームと市場の歴史でもあります。
ExcelはMacから始まり、Windowsで企業標準になった
現在、ExcelというとWindowsやMicrosoft Officeの代表的なアプリという印象が強いかもしれません。
しかし、Microsoft Excelの最初のバージョンは、1985年にMacintosh向けに登場しました。Windows版のExcelが登場するのは、その後です。
この点は、MacとMicrosoftの関係を見るうえでも面白いところです。詳しくは、別記事「初めてのExcelはMacのアプリだった?MicrosoftとMacの意外な関係」で整理しています。
ここで押さえたいのは、ExcelがGUI環境と相性のよい表計算ソフトとして登場し、その後WindowsとOfficeの普及によって企業の標準ツールになっていったことです。
Excelは、単なる表計算ソフトではなく、企業のさまざまな業務に使われる汎用ツールになっていきます。
売上管理、在庫管理、勤怠集計、経費精算、見積作成、予算管理、簡易データベース。本来は専用システムで扱うべき業務も、まずExcelで管理されることが多くなりました。
これはExcelの強さでもあり、同時に危うさでもあります。自由に作れるから便利ですが、ルールがないと属人化しやすくなります。共有や権限管理が弱いと、最新版が分からなくなります。複雑なファイルは、誰も直せない業務システムのようになってしまいます。
Excelは企業の数字を扱う基本ツールになった一方で、Excel依存という問題も生みました。
Googleスプレッドシートとクラウド化
その後、表計算ソフトはクラウドにも広がります。
代表的なのがGoogleスプレッドシートです。
Excelが個人のPC上で使うソフトとして発展してきたのに対し、Googleスプレッドシートはブラウザ上で動き、複数人で同時編集できることが大きな特徴です。
これにより、表計算はさらに変化しました。
- ファイルをメールで送り合うのではなく、同じシートを共有する
- 最新版を探すのではなく、クラウド上の同じデータを見る
- 複数人で同時に編集する
- フォーム、GAS、Looker Studio、AppSheetと連携する
表計算ソフトは、個人作業の道具から、チームで使う業務データの置き場へ変わっていきました。
AI時代の表計算
現在では、表計算ソフトにもAIが入り始めています。
- 関数を提案する
- データを要約する
- グラフを作る
- 異常値を見つける
- 文章で質問して集計する
- スクリプトや自動化処理を生成する
表計算ソフトは、ただ表に数字を入れるものではなくなっています。
データを整理し、分析し、自動化し、AIと組み合わせて業務を動かす場所になりつつあります。
もともと表計算ソフトは、紙の帳票をデジタル化するところから始まりました。
そこから、Apple IIとVisiCalc、IBM PCとLotus 1-2-3、Excel、Googleスプレッドシート、AI時代へと広がってきたのです。
まとめ
表計算ソフトの歴史は、企業の数字の扱い方が変わってきた歴史です。
VisiCalcは、Apple II上でパソコンに仕事の用途を与えました。Lotus 1-2-3は、IBM PC時代の企業表計算を支えました。
Excelは、WindowsとOfficeの時代に企業の標準的な表計算ソフトになりました。Googleスプレッドシートは、表計算をクラウド上の共同編集ツールへ広げました。
表計算ソフトが変えたのは、計算の速さだけではありません。
数字を変えながら考えること。未来のシナリオを試すこと。チームで同じデータを見ること。業務データを自動化やAIとつなげること。
表計算ソフトは、紙と電卓の作業を、デジタルな意思決定の道具へ変えてきました。
