概要
第1回では、パンチカード、大型コンピューター、マイクロプロセッサ、Apple Iまでの流れを整理しました。
しかし、個人がコンピューターを所有できるようになっただけでは、仕事の現場は大きく変わりません。
重要なのは、そのコンピューターで何ができるのかです。
この点で大きかったのが、Apple IIとVisiCalcの組み合わせです。
Apple IIは、より完成品に近いパーソナルコンピューターでした。VisiCalcは、そのApple IIを仕事で使う理由にした表計算ソフトでした。
この2つがそろったことで、パソコンは趣味や技術者の道具から、企業が仕事で買う道具へ近づいていきます。
Apple IIは、より実用的なパーソナルコンピューターだった
Apple IとApple IIは、同じAppleの初期製品として語られますが、性格はかなり違います。
Apple Iは、個人がコンピューターを所有できる可能性を示した製品でした。しかし、基板としての性格が強く、利用者側で周辺機器を用意する必要がありました。
一方、Apple IIは、より完成品に近いパーソナルコンピューターでした。
キーボードを備え、カラー表示に対応し、拡張性もあり、一般の利用者にも扱いやすい形に近づいていました。
ここで、コンピューターは一部の技術者だけのものから、家庭や小規模な事業者にも届く製品へ進みます。
ただし、Apple IIがあっただけで企業の現場に広がったわけではありません。パソコンを仕事で使うには、明確な用途が必要でした。
VisiCalcがApple IIを仕事の道具にした
Apple IIをビジネス用途で使う強い理由にしたのが、VisiCalcです。
VisiCalcは、Dan BricklinとBob Frankstonによって開発された初期の表計算ソフトです。開発会社はSoftware Arts、販売はPersonal Softwareが担当し、Personal SoftwareはのちにVisiCorpという社名になります。
VisiCalcは1979年にApple II向けに登場しました。
このソフトは、パソコンの意味を変えました。
Apple IIというハードウェアがあり、そこにVisiCalcという実用アプリが乗ったことで、パソコンは「面白い機械」から「仕事で使う機械」へ近づきます。
パソコン本体が社会を変えたというより、VisiCalcのようなアプリが、パソコンを買う理由を作ったのです。
表計算は紙と電卓の作業だった
VisiCalc以前、表計算は紙の帳票と電卓で行う作業でした。
- 売上を計算する
- 原価を計算する
- 利益を出す
- 予算を組む
- 複数の条件で試算する
こうした作業は、紙の表に数字を書き込み、電卓で計算し、結果を記録する形で行われていました。
問題は、数字が変わったときです。
売上予測、単価、原価率、人件費。どこか一つを変更すると、関連する計算を確認し直す必要があります。
表計算は、単に計算が面倒だっただけではありません。試行錯誤に時間がかかる作業だったのです。
Dan Bricklinの着想
VisiCalcの発案者は、Dan Bricklinです。
Bricklinは、ハーバード・ビジネス・スクールで学んでいたとき、黒板に書かれた表の数字を見ながら、一部の数字を変えると他の計算結果も自動で変わる仕組みを考えました。
現在の表計算ソフトでは当たり前の考え方です。
しかし当時は、それが大きな発明でした。
紙の表では、数字を変えても計算結果は自動では変わりません。電卓で計算し直す必要があります。
Bricklinの発想は、表を紙から画面へ移し、数字を変更できるものにすることでした。
数字は記録から試算へ変わった
VisiCalcが変えたのは、計算の速度だけではありません。
数字の扱い方そのものを変えました。
紙の帳票では、数字は記録するものに近い存在でした。もちろん分析にも使われていましたが、何度も条件を変えて試すには手間がかかりました。
表計算ソフトでは、数字を変えれば結果もすぐに変わります。
- 売上が10%増えたらどうなるか
- 原価が上がったら利益はどう変わるか
- 人員を増やしたらコストはどうなるか
- 価格を変えたら利益率はどうなるか
こうした試算を、画面上で繰り返せるようになりました。
数字は、過去を記録するものから、未来を考えるための道具へ変わっていったのです。
まとめ
Apple IIは、パーソナルコンピューターをより実用的な製品へ近づけました。
しかし、Apple IIだけでは仕事の現場に入る理由としては弱かったはずです。
そこにVisiCalcが登場します。
VisiCalcは、紙と電卓で行っていた表計算を、画面上で試算できる作業へ変えました。
Apple IIは舞台でした。VisiCalcは、その舞台に乗った決定的なアプリでした。
この組み合わせによって、パソコンは趣味や技術者の道具から、企業が仕事で買う道具へ変わっていきます。
第3回では、VisiCalcの後に登場したLotus 1-2-3、Excel、Googleスプレッドシート、AI時代の表計算までを整理します。
